Calling 第1話 彼女の名は…… -1-
それから俺は名前もクラスもわからない彼女をたまに学校で見かけたり、
すれ違うようになった。
……だけど、ただそれだけだった。
◆ ◆ ◆
――そして俺は中学を卒業し、三年が経って彼女の事も忘れかけていた頃、
思いがけない再会をした。
放課後、俺達サッカー部が使っているグラウンドの隣にある女子のテニスコートに
俺が蹴ったボールが入り込んだ。
それを彼女が拾ってくれたのだ。
あの時とまったく同じ。
彼女も俺と同じこの高校に先日入学したのだ。
しかし、俺は最初彼女だとはまったく気が付かなかった。
十二歳だった女の子が十五歳になると、こうも変わるものなのか――。
あの頃の彼女は小学校を卒業したばかりのまだまだ“子供”で、
身長だって140センチくらいでとても小さかった。
髪もショートカットで胸だって全然ぺったんこ。
だけどさっきボールを拾ってくれた彼女は身長は150センチくらいになっていて、
髪も肩まで伸びてて胸だってそれなりにあった。(……と思う)
幼かった顔もほんの少しだけ大人になってて正直『可愛い子だなー』って思った。
俺が“あの子”だって気が付いたのは部活が終わってからだった。
あの右目の下にある泣きボクロで思い出したのだ――。
◆ ◆ ◆
そして更に一ヶ月後――。
俺は彼女の名前を予想外の出来事で知る事になった。
部活が終わり、いつものように同じサッカー部で部長の高津重幸(たかつしげゆき)と
一緒に部室を出ると、ちょうど女子テニス部の部員達も部室から出てきた。
その中にあの子の姿もあった。
「おっ」
すると、それを見たシゲは何を思ったのか、突然ツカツカと
女子テニス部の部室の方に近づいて行った。
「おい、シゲ」
シゲは俺の声にも反応しなかった。
ズンズンと足を進め、そしてあの子の前でピタリとその足を止めた。
(え……)
俺は思わず慌てて駆け寄った。
「ねぇ、君、名前何?」
いきなり名前を聞かれた彼女は半歩後ずさりしながら小さな声で答えた。
「こ、小峯鈴(こみねすず)……です」
完璧に怯えているみたいだ。
(鈴ちゃんか……可愛い名前だな)
「へぇー、可愛いね。俺と付き合ってよ」
シゲの言葉に俺も彼女もそして周りにいた女子テニス部の部員全員が固まった。
(ええぇぇぇぇぇーっ!?)